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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)5975号 判決 1980年7月30日

原告(反訴被告)

有限会社共栄インダストリー

右代表者

小松重種

右訴訟代理人

杉浦貫一

被告(反訴原告)

平山昭

右訴訟代理人

深田鎮雄

外二名

主文

一  被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、金一、四三七万九、〇一二円及び内金一、三八〇万六、二四八円に対する昭和四七年五月二五日以降支払済に至るまで年一割八分、内金二五万円に対する昭和五一年一月一〇日以降支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、金七九四万九、五三八円及びこれに対する昭和五〇年一月二八日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告(反訴被告)のその余の本訴請求及び被告(反訴原告)のその余の反訴請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用中本訴につき生じたものは被告(反訴原告)の負担とし、反訴につき生じたものはこれを五分しその四を原告(反訴被告)の、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

五  この判決は、第一、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

(本訴請求について)

一別紙計算表(一)1記載の貸付金について

被告が原告から別紙計算表(一)1記載のとおり昭和四六年八月一四日に同年一一月一一日を支払期日として利息については約定なく、遅延損害金は年三割六分とするとの約定の下に四一万三、〇〇〇円借り入れたことは当事者間に争いがない。

二別紙計算表(一)2ないし、4、8ないし16記載の各貸付金について

1  原告が金融を業とする会社であることは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、原告は昭和三七、八年頃から被告に対して金銭の貸付を行なつていたが、昭和四四年頃からはその回数、金額とも増大していつたこと、右貸付は通常は月八分の利息を予め貸付金額から差引いた金額を被告に交付し、被告は利息天引前の金額を額面とする西武食品包装こと訴外平山正子名義の約束手形あるいは小切手を原告宛に振出し交付していたこと、場合によつて被告が訴外今井昭平振出の約束手形を原告に持参して割引を依頼することがあつたが、その際は原告代表者小松重種は当時訴外今井と面識もなく、資力を調査するにも手間がかるからということで結局は被告を信用して被告に金銭を貸付けることとし、但し訴外今井の約束手形の担保としての価値も考慮して約束手形の額面から月七分の利息を差引いた金額を被告に交付したこと、そして被告は自己もしくは前記西武食品包装こと訴外平山正子名義で約束手形に裏書をしていたことが認められる。右認定に反する<証拠>は容易に措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  以上認定した事実によれば、別紙計算表(一)2ないし4、8ないし16記載の金銭はこれに対応する訴外今井昭平振出の各約束手形を担保として原告が被告に対して貸与したものと認めるのが相当である。

3  ところで前認定のとおり別紙計算表(一)2ないし4、8ないし16記載の貸付金については、原告は手形額面から月七分の利息を差引いた金額を実際に被告に交付しているのであるが、原告は請求原因記載のとおり月八分の利息を手形額面から差引いたとして計算した上で元利合計金を利息制限法の制限内で請求している(月八分の利息を天引したとして計算した場合、原告にとつてはより不利益となる。)ので、右限度で原告の請求を認めるのを相当とする。

4  又1に掲げた各証拠によれば、別紙計算表(一)2ないし4、8ないし16記載の各貸付金の貸付年月日、支払期日は右記載のとおりであることが認められる。一方、右各貸付金につき遅延損害金を月一割六分とするとの約定が、原、被告間でなされたことを認めるに足りる証拠はない。

三別紙計算表(一)5ないし7、17ないし40記載の各貸付金について

1  <証拠>によれば、昭和四六年頃からは被告は資金繰りの悪化から、原告に対する従前の貸金債務の支払期日を延期してもらうため、延期された期日までの月八分の利息を原告に支払い、延期された期日の記入された約束手形を以前原告へ交付してある約束手形と差し換えることが多くなつたこと、別紙計算表(一)5ないし7、17ないし40記載の各貸付金も右の如く差し換えられた各約束手形の振出日をもつて同表の貸付年月日欄の該当の日付としたものであること、しかしながら、それらの支払期日は当該欄、原告が被告から受領した年八分の利息は天引額欄、貸付金額は当該欄記載のとおりであることが認められるが、原、被告間で右各貸付金につき遅延損害金を月一割六分とする旨の約定がなされたことを認めるに足りる証拠はない。

ところで、被告は、別紙計算表(一)5ないし7、17ないし40記載の各貸付金は別紙計算表(二)記載のとおり重複している旨主張する。そして、<証拠>によれば、右の各貸付の場合にも現実に金銭の授受のある貸借と同じく計算書が原告から被告へ交付されたことが認められるが、<証拠>により、被告の指摘する別紙計算表(二)記載の各貸付金に対応すると認められる各約束手形の振出日、支払期日及び額面金額を検討してみると、差し換え前の約束手形の支払期日と差し換え後の約束手形の支払期日がわずか三日しか異ならないもの、差し換え前の約束手形の支払期日と差し換え後の約束手形の振出日とが一カ月以上異なるもの、額面の異なるもの、被告自身差し換えでないことを明確に確認しているものがあるのであつて、この事実に照らして考えると、計算書が交付されたことをもつて被告の右主張事実を推認することはできないし、右主張に一部沿う<証拠>は措信できないし、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。したがつて、被告の右主張は理由がないといわざるをえない。

四<証拠>によると、原告が被告に対し別紙計算表(一)41ないし43記載の各貸付金を利息及び支払期日の約定なく貸し渡したことが認められる。なお、右貸付遅延損害金は年三割六分とする旨の約定が原、被告間でなされたことを認めるに足りる証拠はない。

五以上認定した事実につき、別紙計算表(一)を正しく計算しなおすと別紙計算表(四)記載のとおりとなる。

六次に被告の抗弁事実につき判断するに抗弁1及び2記載の事実<編注・被告の超過支払>は当事者間に争いがなく別紙計算表(三)1ないし101記載の各借入金につき右計算表(三)を正しく計算しなおすと別紙計算表(五)1ないし101記載のとおりとなる。そして昭和五〇年一月一六日に被告から原告に対し別紙計算表(一)1記載の四一万三、〇〇〇円と、被告が原告に対して有する不当利得返還請求権とを対当額で相殺する旨の意思表示があつたことは当事者間に争いがないから、別紙計算表(一)(同計算表(四))1記載の四一万三、〇〇〇円の原告の被告に対する貸金返還請求権はその支払期日(昭和四六年一一月一一日)に遡つて、別紙計算表(五)1ないし101記載の合計金四一万八、三八〇円中の金四一万三、〇〇〇円(同(五)1ないし101記載の合計金四〇万六、五二七円と同(五)101記載の一万一、八五三円中の六、四七三円の合計。)と相殺されることにより消滅したものと認められる。

七以上の次第で原告の被告に対する本訴請求は別紙計算表(四)2ないし43の元利合計金一、四三七万九、〇一二円及び同計算表(四)2ないし40の貸付元本(実際に手渡した金額)合計金一、三八〇万六、二四八円に対する支払期日である昭和四七年五月二五日以降支払済に至るまで利息制限法の制限内の年一割八分の割合による利息と同一割合の遅延損害金、内同計算表(四)41ないし45の貸付金合計二五万円に対する再反訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五一年一月一〇日以降支払済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(反訴請求について)

八別紙計算表(三)1ないし332、336ないし353、356ないし361、373ないし375記載の各貸付金について

右各貸付金については、同計算表(三)借入年月日欄記載の日に借入金額欄記載の金額を、支払期日欄記載の日を支払期日として、支払利息額欄記載の金額を予め借入金額から差引いた上で、被告が原告からその交付を受けたこと、被告は右各貸付金をいずれも支払期日に返済したこと、従つて利息天引後の金額を貸付元本として支払期日までの利息制限法の制限内での最高限度の利息額を計算すると、これと被告が実際に天引されることによつて支払つた利息額との差額が、原告の不当利得となることは、いずれも当事者間に争いがない。

九別紙計算表(三)333ないし335、354、355、362、ないし372、376ないし387記載の各貸付金について

1  別紙計算表(三)385ないし387記載の各貸付金について

被告は右各貸付金の借り入れと弁済を主張するが、<証拠>はいずれも原告が本訴において請求する別紙計算表(一)26、27、34記載の各貸付金に対応するものであることは前認定のとおりである。そして右各貸付金が別紙計算表(二)記載のとおりに差し換えられたとの被告の主張が理由がないことは前記のとおりであり、他に右各貸付金を弁済したことを認めるに足りる証拠はないから、被告の同計算表(三)385ないし387記載の各貸付金についての借入れと弁済の主張は理由がない。

2  同計算表(三)354、355、370記載の各貸付金について

右各貸付金については、被告はその借り入れと弁済を主張するが、右主張に符合する<証拠>は信用できない。また乙第二四三号証の期日、日数、利息又は割引料欄は、その成立について原告会社代表者が自ら記入した旨の被告本人の供述部分は措信し得ないし、他に右部分の成立を認めるに足りる証拠がないから採用できず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠がない。却つて、<証拠>によれば、同計算表(三)354、355記載の各貸付金についての計算書には「翌月返済の約、約手小切手ナシ」との記載があること、右両貸付金の利息についての計算書には「小切手約手共未決済」との記載があること、同計算表370記載の計算表には「翌月返済の約、約手小切手ナシ」との記載があることを認めることができ、この事実によれば、同計算表(三)354、355、370の各貸付金については、原告が被告から利息を取つたことも、被告が後日これを弁済したこともいずれも疑問なしとし得ず、従つて被告の右主張は理由がない。

3  同計算表(三)367ないし369記載の各貸付金について

被告は右貸付金の借り入れと弁済を主張するが、右主張に沿う<証拠>は信用できないし、乙第二四二号証は、その成立について原告会社代表者の指示に従い被告が訂正したものである旨の被告本人の供述部分が右乙号証の体裁から措信し得ず、他に右成立を認めるに足りる証拠がないから採用の限りでなく、そして他に同計算表(三)367ないし369記載の貸付金の借り入れ等を認めるに足りる証拠はないから被告の右主張も理由がない。

4  同計算表(三)333ないし335、362、366、371及び376記載の各貸付金について

<証拠>によれば、支払期日、貸付年月日、貸付金額から同計算表(三)333は同計算表(一)7、同(三)334は同(一)5、同(三)335は同(一)6、同(三)362は同(一)30、同(三)366は同(一)32、同(三)371は同(一)33、同(三)376は同(一)37とそれぞれ同一のものと推認され、右各貸付金については前記認定のとおりである。ところで原被告間での金銭の貸借の方法については、既出の各証拠及び前認定の事実によれば、昭和四六年頃以降、支払期日の延期のため約束手形の振り換えがなされる場合も、又被告が債務の支払をなす場合も原告の所持している約束手形と交換でなされるのであるから、原告が約束手形を所持していることをもつて一応右債務の弁済が未だされていないものと推認して然るべきであり、被告において右推認を覆すに足りる証拠を提出しない本件においては、同計算表(三)333ないし335、362、366、371及び376記載の各貸付金についても、これを被告が弁済していないというべく、よつて被告の右主張も理田がないというほかない。

5  同計算表(三)365、372、377、378、383及び384記載の各貸付金について

被告は右貸付金の借り入れ及び弁済を主張する。しかし、右主張に符合する<証拠>は信用できないし、これに符合するかの如き<証拠>は、<証拠>により、同計算表(三)372、377、378、383記載の各計算書の利息又は割引料欄における一〇万の位の一の数字がいずれも後に書き加えられていること、右各貸付金はいずれも従前の貸金債務の支払期日を月八分の利息を受領した上で延期する予定のものであつたが、被告は利息を支払うことができなかつたので、そのままになつていることが認められ、右事実に照らして採用できないし、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。従つて被告の右主張も失当である。

6  同計算表(三)379ないし381記載の各貸付金について

同計算表(三)379記載の貸付金については、<証拠>によると、同貸付年月日欄記載の日に、支払期日欄の期日を支払期日とし、その間の月八分による利息を受領したことが認められるものの、<証拠>によれば、被告は昭和四六年末頃から同四七年頃までは極度に資金繰りが悪化し、支払期日の延期のための利息さへも支払えないことが多かつたことが認められるから、同計算表(三)379記載の貸付金の項の記載にしてもこれを被告が原告に弁済したことまでも証するものではなく、他に右弁済の事実を認めるに足りる証拠はない(前認定のとおり原、被告間で貸借のされる場合は被告は原告に約束手形を差し換える等して交付しているが、原告が同計算表(三)379記載の貸付金についての約束手形を書証として提出していないことの一事をもつて、右債務が弁済を了しているものと認めることはできない。)。又、同計算表(三)380及び381記載の各貸付金については被告のその借り入れと弁済の主張は、これに沿うかの如き<証拠>は、<証拠>によると、右各貸付金の計算書の下段には「入金ト表示セルモノハ一時預リトス」との記載があること、右計算書の利率欄における朱印の「入金」の記入は原告会社代表者のしたものではないことを認めることができるから採用できないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。したがつて、被告の右主張も失当である。

7  同計算表(三)363及び364記載の各貸付金について

被告は右貸付金の借り入れと弁済の事実を主張する。そして、<証拠>には同計算表(三)362ないし364記載の各貸付金が一括して記載されているが、同(三)362記載の貸付金は同(一)30記載の貸付金と同一であることは前認定のとおりであり、被告は同計算表(四)30(同計算表(一)30を当裁判所の認定した範囲で計算しなおしたもの。)の支払利息欄記載のとおり三万一、〇〇〇円を原告に利息として支払つており、又<証拠>から、被告は原告に対し同計算表(三)362ないし364記載の各貸付金の利息として九万円を支払つたことが認められるので、九万円から三万一、〇〇〇円を差引いた五万九、〇〇〇円が同計算表(三)363及び364記載の貸付金の利息として原告が被告から支払を受けた金額となるが、右五万九、〇〇〇円は同貸付金について被告が支払うことになつていた計一八万八、九五〇円の利息の一部にしか過ぎないため、その際に原、被告間で消費貸借契約が成立したものとは考えられず、又被告が右三五万円と三〇万円の金額を原告に弁済したことを認めるに足りる証拠のないことも前6において計算表(三)379記載の貸付金につき認定したのと同様である。

よつて、被告の右主張も理由がないものである。

8  同計算表(三)373ないし375及び382記載の各貸付金について

原告が同計算表(三)373ないし375の各貸付金の借入年月日欄記載の日に、支払期日欄記載の日を支払期日として、借入金額欄記載の金額を、支払利息欄記載の金額を利息として予め差引いた上で被告に貸し渡したことは当事者間に争いがなく、又同計算表(三)382記載の貸付金については<証拠>により、同計算表借入年月日欄記載の日に、支払期日欄記載の日を支払期日として、借入金額欄記載の金額につき、利息を月八分として従前成立していた消費貸借契約の支払期日を延期したことが認められるが、前6において同計算表(三)379記載の貸付金につき認定したのと同様、被告が右各貸付金を原告に弁済したことを認めるに足りる証拠はない。

よつて同計算表(三)373ないし375、382記載の各貸付金についての原告に対する不当利得の返還請求は理由がない。

9  以上認定した事実に基づき、別紙計算表(三)を正しく計算しなおすと同計算表(五)のとおりとなる。

一〇原告は被告が反訴において原告に対し請求している不当利得返還請求権を、原告が被告に対し本訴にて請求している貸金請求権と相殺する旨抗弁するが、右貸金債権につき相殺の意思表示をする前に本訴を提起していることは記録上明らかである。一個の債権に基づく請求訴訟を提起して、その訴訟係属中に他の訴訟においてその同一債権をもつて相殺を主張することは、結局同一債権について既判力を生ずる二個の裁判を求めることになるから民事訴訟法二三一条の類推適用により許されないものと解するを相当とする。

よつて原告の反訴抗弁はその余の点につき判断するまでもなく採用し得ない。

(結論)

一一以上の次第で原告の本訴請求は第七項記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、被告の反訴請求は別紙計算表(五)超過支払額欄合計金八三六万二、五三八円から本訴における相殺の抗弁により消滅した金四一万三、〇〇〇円を減じた金七九四万九、五三八円及び反訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五〇年一月二八日以降支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(並木茂)

別紙計算表<省略>

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